AIによる株式投資中級【合理的期待形成】

たいていの場合,ファイナンスの教科書では,株式市場にあたかもひとりの投資家しか存在しないかのように記述されます。

たとえば,要求収益率や期待収益率といった用語が使われる際,単に「投資家の」と記されたり,それさえも省略されるのが通常です。

このような轡き方に違和感を覚える読者も多いと思われます。

実際のところ,株式市場には数多くの投資家がひしめき合い,ある企業のキャッシュフローについて,投資家ごとに予想が異なっているはずです。

本来,株式市場の役割は,このような「異質的期待」(heterogeneous expectation)を,株式の需要と供給を通じてひとつの株価に集約することにあるとも言うべきです。

それでは,ひとりの投資家しかいないように描写するファイナンス理論は荒唐無稽,机上の空論だと切って捨てられるべきでしょうか。

実を言うと,ファイナンス理論の背景には「合理的期待形成」(rational expectation)という概念があります。

投資家は利用できる情報はすべて利用して将来を予想すると想定されますが,株価も情報の一種だと言えます。

ある投資家が個人的に適正と考える株価を予想したとします。

このとき,実際についた株価がそれよりも高かったとすれば,この企業について他の投資家は何か良い情報を持っているのではないかと推量できます(株価からの情報抽出)。

それゆえに,この投資家が当初の悲観的な予想を修正したとすれば(期待の修正)、他の投資家の予想とはそれほど異ならなくなります。

以上述べたことは,すべての投資家について当てはまります。

もし,このような情報抽出が完全ならば,究極の状態において,適正と考える株価は投資家ごとに異なりません。

このような「同質的期待」(homogeneous expectation)のもとでは,数多くの投資家の需給で形成される「市場の見解」を,あたかもひとりの代表的な投資家の見解であるかのように描写することができるのです。

もちろん,現実の株式市場において。これほど完全に期待が同質化するとは考えられません。

しかし,思ったよりも高い株価であるとき,まったく予想を修正しない投資家を想定することも反対圏の現実離れだと言わざるを得ません。

おそらく,真実は中間あたりでしょう。たとえ現実離れしているとしても,できるだけ単純明快なモデルで一定の結論を出しておき,そこから徐々に現実的な修正を施すのが経済学やファイナンスのアプローチです。

さもなければ,誰にでも理解できるモデルにはならないという割り切り方です。