AIによる株式投資中級【市場の効率性】

投資家が将来の業績を予想するための判断材料はその株式に関連する情報です。

したがって,価格メカニズムがきちんと機能しているかぎり。あらゆる情報が株価に反映されるはずですし,株式市場はそのような役割を果たさなければなりません。

概念として,新しい情報が速やかに正しく証券の価格に反映されるような市場を「効率的市場」(efficient market)と呼びます。

1970年, E. F.フアマ(Eugene F. Fama, 1939-囗まこの考え方を「効率的市場仮説」(EMH: efficient market hypothesis)という名称の下で整理し実際の株式市場がおおむ
ね効率的であることを示す実証研究を提供してきました。

この業績だけではありませんが. E. F.ファマに対して2013年度のノーベル経済学賞が授与されています。

たとえば,ある製薬企業が画期的なガン治療薬を開発することに成功したとしましょう。

これはニュースです。仮に情報が公表される直前の株価が500円で,新しい理論株価が900円だとしましょう。

市場が効率的ならば,情報が公表された直後に900円まで上昇すると考えられます。

ところが,市場が非効率的ならば900円に調整されるまで時間がかかってしまいます。

市場が効率的である場合,株価の調整が終わった段階では,この情報に基づいて投資家が株式を購入しても利益を得るには遅すぎます。

他方,市場が非効率的である場合。株価は新しい情報をなかなか反映しないため,情報が公表されてからしばらく時間が経過していても,依然として情報に基づく株式の購入が利益をあげる余地があります。

株式ではなく国債の投資ですが,非効率的市場の有名なエピソードがあります。

1815年,ナポレオン・ボナパルト(Napoleon Bonaparte, 1769-1821)が率いるフランス軍とイギリス軍がベルギーのワ-テルローで交戦しました。

イギリスのロスチャイルド財閥は家来をワーテルローに派遣し,伝書鳩を使ってイギリス軍の勝利を誰よりも早くキャッチしていました。

N. M.ロスチャイルドNathan Mayer Rothschild, 1777-1836)はわざとイギリス国債の売り注文から始めて他の投資家の不安をあおり,価格が十分に安くなってから大量の買い注文に転じました。

翌日,イギリス軍勝利の情報がようやく一般市民に到着し,今度は一転して国債価格が急騰したため, N. M.ロスチャイレドはかなりの利益を得たそうです。

このように,他の投資家に先駆けて情報を入手できれば,その情報に基づいた証券投資で利益を得ることができます。

しかし,現在はリアルタイムで新しいニュースが配信される高度情報化社会ですから,自分だけが情報を独占的に入手することは非常に困難です。

現在の証券市場は, N. M.スチャイルドの事例とは比較にならないぐらい効率的なのです。

もっとも,効率的市場仮説(EMH)で想定される適正な株価は,誰の視点で捉えたときの適正な価格なのかという疑問は生じるでしょう。

というのは,本来であれば適正と考える株価は投資家ごとに異なっているはずだからです。

この点について,多くの実証研究は,最初から同質的期待が前提とされているCAPMに基づいて適正な株価を認識していることになります。

あるいは,質的期待を前提するとしても,合理的期待形成によって投資家の期待は同質化するため,適正な対価はひとつに定まると認識していることになります。

しかし。実際のところ,市場の効率性を検証しているのか,前提となるモデルの適切さを検証しているのかが明快ではないという課題をはらんでいます。

同質的期待や合理的期待形成がかなり強い仮定であることは否めませんが,ファイナンス理論を構築するための必要悪としての簡単化であると述べるしかないと思われます。

なお, E.F.ファマは市場の効率性の程度に応じて,効率的市場仮説(EMH)を3つのカテゴリーに分けて提示しています。

「ウィーク型の効率性」(weak form efficiency. 弱度)は。過去の株価がもたらす情報が速やかに正しく株価に反映される状況,「セミストロング型の効率性」(semi-strongrme伍riency.準強度)は,公開されている情報が速やかに正しく株価に反映される状況,「ストロ
’グ型の効率性」(strong form e伍ciency.強度)は,経営者だけが知っている非公開の情報(インサイダ一情報)さえ速やかに正しく株価に反映される状況を想定しています。

このとき,効率性の程度が比較的弱いほうの仮説は,強いほうの仮説の部分集合という位置づけにあります。つまり,市場が強いレベルで効率的であれば,必然的に弱いレベルでも効率的だということになります。

実証研究によると,現実の株式市場は,ウィーク型では効率的,セミストロング型ではほぼ効率的であるものの(反証もある),ストロング型では非効率的であるという結果が得られています。

非公開の情報(インサイダー情報)に基づく株式の売買は,重要事実を知らない一般投資家を犠牲にする不公正な取引であり,金融商品取引法によって禁止されています。

ストロング型の効率性が満たされていない現実を考えると,妥当な法・ルールであると言えます。