AIによる株式投資中級【株式市場の均衡】

代表的な投資家にとって期待収益率と要求収益率が一致する状況が株式市場の「均衡」(market equilibrium)です。

もし要求している以上に期待できる収益率ならば,有利な投資対象であるがゆえに超過需要となり,割安すぎる株価は引き上げられます。

逆に,もし要求しているほどに期待できない収益率ならば,不利な投資対象であるがゆえに超過供給となり,割高すぎる株価は引き下げられます。

結局,株式市場の価格メカニズムがきちんと機能しているかぎり,期待収益率は要求収膸率に一致するまで調整され,それ以上に変化しようとしない均衡に至ります。

このとき,代表的な投資家にとって,株価は現在価値と一致しているはずです。

なお,最初から要求収益率と期待収益率を区別せずに論述する教科書もありますが,厳密に言えば別の概念ですので,本書では一応区別しています。

わかりやすく航空会社を例に挙げて,投資家がリスクを負担することの重要性を強調しておくことにしましょう。

残念ながら飛行機が墜落する可能性はゼロではなく,そうなってしまった場合は巨額の賠償金を請求されるなど,航空会社には大きな損失が生じます。

このようなリスクを誰もが硅けようとするならば,普段から決して飛行機を飛ばせませんし,航空ビジネスが成立しません。

そうなると誰も気軽に海外旅行を楽しめない理屈です。

実際のところ,株主が事業活動(ビジネス)のリスクを負担するからこそ航空ビジネスが成り立つのです。

そして,このリスク負担が大きくなればなるほど,それに見合って大きな報酬が期待できるのでもなければ,そもそもリスクが高いビジネスに出資しようとは決して思わないでしょう。

株主がリスクに見合った収益率を要求し,それゆえに期待収益率が高くなるような株価が形成されるのは,強欲のなせる業ではないということです。

このように,リスクに応じて期待収益率が高くなるメカニズムのもとでは,高リスク案も資金調達のチャンスが得られることになります。

仮にこのような原理が成立しないとすれば,リスク回避型の投資家にとって低リスク案だけが魅力的な投資機会になりますから,どれほど社会にとって有益な投資プロジェクトであっても,リスクが高いというだけの理由でまったく実施されないことに
なってしまいます。

つまり。高リスク・高期待収益率の原理が成り立つからこそ,ファイナンスがビジネスを支え,ビジネスが社会を支えることができるのです。

低リスク案だけが実施される社会がどのようなものかを想像してみてください。

正規分布

この付録は本論の2.3.に対する補足的な説明です。

ここまでは状態の数がたったの2つしかない単純な状況で説明してきました。

横軸に収益率r,縦軸に頻度(相対度数)を取ったとき,状態の数を増やすにつれて,柱の数が多いヒストグラム(度数分布表)を描くことができます。

より一般的に状態の数を無限と考え,収益率rが「正規分布」(normal distribution)にしたがうとみなすならば,頻度は確率密度に置き換わり,平均を中心として左右対称の釣り鐘型の確率分布になります。

このとき「期待収益率」(expected rate of return)は確率的に期待できる平均的な収益率を表し,「標準偏差」(standard deviation)は収益率のバラツキ程度を表します。

標準偏差と,がリスクの大きさを表現しています。その愃が大きくなるほど分布のバラツキは大きくなり,中央の山は低くなり裾野が厚くなります。

つまり,期待収益率E[r]から離れた収益率r(大アタリや大ハズレ)が実現しやすくなるのです。

正規分布の性質上. 収益率rがおさまる確率は68.3 %とわかっています。たとえば,ある株式の期待収益率E[r]が10 %,標準偏差cyが5%だとしましょう。

与えられた数値を代入すると,E[r]+1 o = 15 %. E[r]-ltr =5 %ですから,この株式の収益率rが5%~15%の範囲内におさまる確率は68.3 %だということです。

同様に, -2ff<E[r]<+2(yの範囲に収益率rがおさまる確率は95.4%とわかっており,それは株式の収益率rがO%~20%の場合です。

さらに, -3cr<E[r]<+3c,の範囲に収益率rがおさまる確率は99.7 %とわかっており,それは株式の収益率rが-5%~25%の場合です。

逆に言えば,株式の収益率がその範囲外で実現する確率は3%しかないということです。

語呂良く「センミツ」(1.000回に3回)と記憶しておくとよいでしょう。

標準偏差

ここでは標準偏差tyの計算方法を,自動車メーカーに投資する事例で示しています。

まず,それぞれの収益率rが期待収益率E[r](つまり平均)からどのぐらいズレているのかが知りたくて,それを「偏差」(deviation)と呼びます。

一見すると,この偏差r-E[r]の期待値E[r-E[r]]を取りさえすれば平均的なズレがわかるため,投資のリスクがどの程度かを表現できそうに思われます。

ところが,偏差の期待値は必ずゼロになってしまいます。そうなるように平均が決まっているとも言えます。

それではバラツキの尺度として使えませんので,偏差を2乗してから期待値E[(r-E[r])2]を取ります。これが「分散」(variance)です。

ただ,分散(y2の単位は%2(パーセントの2乗)になってしまうので。このままでは使いにくい難点があります。

そこで分散の平方根を取って「標準偏差」(standard deviation)とします。

そうすれば,標準偏差,7の単位は%となり,期待収益率E[r]と単位が揃うので使い勝手が良くなります。