AIによる株式投資中級【CAPM】

同じW. F.シャープが1964年に提示した「資本資産価格モデル」(CAPM: capital asset pricing mode1)は,株式のリスクプレミアムがどのように決まるのかを示した理論です。

これらの研究業績が評価され, W.F.シャープには1990年度のノーベル経済学賞が授与されています。

W. F.シャープのCAPMは,H.マーコピッツのポートフォリオ理論だけでなく,J.トービン(James Tobin, 1918-2002)の「分離定理」{1958年)を応用したものでもあります。

H.マーコビッツのモデルは,不確実なキャッシュフローをもたらす「リスク資産」(risk asset)しか検討の対象としていませんが.J.トービンは,ここに確実なキャッシュフローをもたらす「無リスク資産」(risk-free asset)を導入することによって,ポートフォリオ理論を複雑化するどころか,かえって簡単化する
ことに成功しました。

具体的に,前者は株式を想定し,後者はほとんど無リスクである銀行預金もしくは国債を想定することができます。

横軸をリスク(標準偏差。),縦軸を期待収益率E[r]とする図において,あるリスク資産と無リスク資産の組み合わせは直線上に位置します。

このような直線は無数に描くことができますが,望ましい配合比は「資本市場線」(CML:: capital market line)と呼ばれる直線上にしか存在しないはずです。

なぜなら,リスク回避型の投資家にとって,同じ期待収益率ならば低リスクのほうが望ましく,同じリスクならば高期待収益率のほうが望ましいはずだからです。

これ以外は魅力的な投資対象ではないため,検討の対象から外すことができます。

もともと,リスク資産だけを検討の対象とするRマーコビッツのモデルにおいて。効率的フロンティアは投資機会集合(ポートフォリオの傘)の左上部に位置する曲線でした。

ところが,J.トービンの簡単化によって,従来は曲線だったフロンティア(境界線)が,いまや資本市場線(CML)という直線に置き換わるのです。

実を言うと,リスク資産については,資本市場線(CML)とポートフォリオの傘が接する点よりも望ましい組み合わせが存在しません。

この組み合わせを「接点ポートフォリオ」(tangency portfono)と呼びますが,後ほど説明するように点によって表現されています。

比喩を使いますが,フルーツ・ジュースを作るにあたって,りんご,みかん,ぶどう…等の望ましい配合比は,実を言うとたったの1つしかないことになります。

さて,投資家にとっての最適ポートフォリオは,接点ポートフォリオと無リスク資産の組み合わせになるため,それは資本市場線(CML)のどこかに位置します。

このように,リスク資産の組み合わせを考える作業(第1段階)と。それに無リスク資産を組み合わせる作業(第2段階は別の意思決定であり,そのため「分離定理」(separation theorem)という名称が付いています。

比喩の続きですが,出来上がったフルーツ・ジュース(リスク資産のポートフォリオ)と,新たに取り出したアルコール(無リスク資産)とを,どのような割合で混ぜてカクテルを作るのかに個人的な好みが反映されますが,それらは別の作業として切り離せるということです。

ところで, W. F.シャープのCAPMは,単独の投資家の意思決定というよりも,広く株式市場の全体に着目しています。

かなり強い仮定ですが,すべての投資家がリスクと期待収益率について同じ予想をするという「同質的期待」(homogeneous expectation)を前提することによって,株式については誰もが共通のポートフォリオを保有すると想定されています。

もともと投資家ごとに予想が異なっていても,観察できる株価から情報を抽出して予想を修正すれば,究匯的にすべての投資家が同質的な予想をするようになるという合理的期待形成を説明しました。

この点に関して, CAPMは最初から同質的期待を仮定していることになります。

もちろん,現実には満たされませんが,モデルが複雑になりすぎないための単純化だと考えてください。

モデルの仮定によって,株式については誰もが同じように構成された共通のポートフォリオを保有するのですから,それは株式市場の全体と構成が同じでもあるはずです。

少し考えればわかることですが,異質なパーツを数多く混ぜ合わせれば,出来上がった全体は個々のパーツと同じものにはなりませんが,同質のパーツを数多く混ぜ合わせた場合,出来上がった全体は個々のパーツと同じになるはずです。

いわば,あらゆる投資家が株式市場の縮小版(ミニチュア)を保有しているような状況になります。

このように,あらゆる投資家が共通して保有するものを「市場ポートフォリオ」(market portfolio)と呼びますが,それはすべての株式を組み入れて。市場平均とまったく同じ変動パターンを持つようなポートフォリオです。

具体的には,日経平均株価や東証株価指数に連動するファンドを思い描けばよいでしょう。

たとえば,東証株価指数が1%だけ上昇(下落)したとすれば,誰もが共通して保有している市場ポートフォリオも1%だけ上昇(下落)するということです。

その意味において,あらゆる投資家は市場そのものに投資していると表現すればわかりやすいだろうと思います。

以上のように, W. F.シャープのCAPMはあらゆる投資家の同質的期待を仮定することによって,トービンの分離定理を株式市場の全体に応用したものですが,そうであるがゆえに,あらゆる隗資家について投資機会集合(ポートフォリオの傘)や資本市場線(CML)は同じものを描くことがで
きます。

そして,J.トービンが言うところの接点ポートフォリオは,市場ポートフォリオとして読み替えられることになります(点M)。

ところで,ベーダ係数βは,分散投資で消去できない市場リスクを表現する尺度であると言えます。

モデルの仮定により,すべての投資家が市場ポートフォリオを保有しているのですから,すべての銘柄を組み入れた分散投資をしていることになります。

ということは,分散投資で消すことができる個別リスクはまったく残っていないはずです。

この後に説明しますが,すでに消えているはずのリスクにプレミアムが付くはずはないと考えましょう。